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東京地方裁判所 昭和58年(行ウ)104号 判決

原告

鶴田泰雄

右訴訟代理人弁護士

榊原卓郎

武山信良

塚越豊

被告

東京都固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

東貞三

右指定代理人

吉田博明

外一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙一1記載の土地(以下「本件土地」という。)に対する昭和五七年度の固定資産課税台帳登録価格につき、被告が昭和五八年三月一八日付けでした原告の審査の申出を棄却する旨の決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、本件土地につき、七分の一の共有持分を有している。

2  東京都知事は、昭和五七年三月三一日、地方税法(以下単に「法」という。)四一〇条の規定に基づき本件土地の昭和五七年度の固定資産価格(以下「本件登録価格」という。)を一億四三二四万六八八〇円と決定し、東京都税条例四条の三の規定により右知事の委任を受けている東京都中央都税事務所長(以下、東京都知事と合わせて「処分庁」という。)は、同日、法四一一条の規定により本件登録価格を固定資産課税台帳に登録し、同年四月一日から同月二〇日までの間、関係者の縦覧に供した。

3  原告は、昭和五七年四月二二日、本件登録価格について被告に対し審査の申出(以下「本件審査申出」という。)をしたが、被告は、昭和五八年三月一八日付けで本件審査申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をし、本件決定はそのころ原告に送達された。

4  本件決定には、次のとおりの手続の違法がある。

(一) 審理手続の違法

(1) 原告は、本件審査申出に際して口頭審理の申請をし、昭和五七年一〇月一三日、口頭審理が実施された。しかし、この口頭審理は、評価基準及び東京都固定資産(土地)評価取扱要領(以下「取扱要領」という。)に定める評価の手順を一般的抽象的に説明するだけの形式的なものであつて、実質的には口頭審理とはいえず、また、原告は、昭和五八年二月八日、口頭審理を再開するよう申し出たのに、被告は、口頭審理を再開することなく、本件決定をした。このような審理の仕方は違法というべきである。

(2) 被告は、法四三〇条により、本件土地の評価に必要な取扱要領、評価図を処分庁から提出させ、原告に閲覧させる義務があるのに、これを怠つた違法がある。

(二) 本件決定は、本件登録価格が妥当であるとする具体的な計算根拠等を示しておらず、理由不備の違法がある。

5  本件決定は、本件土地の価格を過大に評価した違法がある。

6  よつて、本件決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は認める。

2  同4ないし6は争う。

三  被告の主張

1  審査手続について

(一) 本件審査申出の趣旨は、本件土地の昭和五七年度の固定資産評価額が高額であるから減価せよというものであり、その理由は、同一ブロック内の別紙一2記載の土地(以下「対象土地」という。)と比較すると容積率が六〇パーセント、最高建築の高さ(法五六条一項により算出される高さを指す。以下同じ。)も二六パーセントに制限されているうえに、面積も狭く、立地条件も悪いから、本件土地の価格は対象土地の六〇パーセント以下になるのが当然であること、その評価手順について疑義があること等であつた。

(二) 特別区の区域における固定資産(土地)の評価は、法三八八条の規定により自治大臣が定めた固定資産評価基準(以下「評価基準」という。)及びこれに基づいて東京都知事が定めた取扱要領によつて行うものとされているから、本件審査申出の審査(以下「本件審査」という。)においては、本件土地が、評価基準及び取扱要領に基づき適正かつ妥当に評価されているか否かについて審査することになる。

(三) 本件決定に至る過程

(1) 本件土地の評価について、原告から本件審査申出書並びに昭和五七年六月一五日付け及び同年八月四日付け各弁ばく書が、これに対して処分庁から同年六月四日付け答弁書、同年七月二八日付け再答弁書及び同年八月二三日付け再々答弁書がそれぞれ提出された。

(2) 被告は、昭和五七年八月五日、原告の立会のもとに、本件土地、対象土地及び後記2(三)(2)記載の標準宅地(以下「本件標準宅地」という。)の利用状況、路線価の付設状況等を確認するため実地調査(以下「本件実地調査」という。)をした。

(3) 被告は、昭和五七年一〇月一三日、口頭審理(以下「本件口頭審理」という。)を行つた。

席上、原告は、処分庁は評価図の閲覧に応じるべきである、また、本件土地は、対象土地と比較すると、前面道路幅が八メートルと狭いため、容積率及び最高建築の高さを低く制限されているのに、その評価額は対象土地の七五パーセントにのぼつているが、少なくとも六〇パーセント以下になるべきである旨陳述した。

これに対して処分庁は、評価図は、各筆ごとに評点が付されており、この評点は他人の財産の秘密に該当するものであつて、これを閲覧に供することは法二二条に抵触するものであり、しかも、閲覧に供し得るものを制限列挙した東京都事務手数料条例に係る主税局長通達には、同図が含まれていないのであるから、これを閲覧に供することはできない、また対象土地は、周辺の他の三筆の土地と合わせて一画地として評価したもので本件土地と比較するのは相当ではなく、しかも、対象土地に係る路線価は一一六万点であり、本件土地に係る路線価は七二万点で、標準的な画地としての比較では、原告の主張する格差に近い数値になる、更に、本件土地は、二方道路に面しており、奥行逓減の適用を受けないことも格差を減少させる理由となつている旨陳述した。

(4) 本件審査の過程で、処分庁から本件土地に関連する地籍図、路線価図、地籍図の一部に路線価を付した図面及び土地課税台帳の各写が提出された。また、被告は、特別区の存する区域の路線価図を閲覧した。更に、評価基準及び取扱要領については、被告は、常時これを備え付けている。

(5) 被告は、前記(1)ないし(4)記載の資料から、本件土地の正面路線の路線価は、本件標準宅地の沿接する街路の路線価を基礎として妥当に付設され、画地係数は、奥行価格逓減率及び二方路線影響加算率が適正に評定され、地積及び評点一点当たりの価格も適正であると判断し、本件決定をした。

(四) 手続きの適法性

(1) 本件口頭審理は、前記(三)(3)記載のとおりであつて、形式的に過ぎないものではなく、口頭審理の方式として適法なものである。

なお、原告は、昭和五八年二月八日、被告に対し口頭審理の再開を申し出たが、その理由は、東京都主税局長の出席を求めて、本件土地の評価額の算定根拠を明確にしてもらうためというものであつて、従前の審理から、その必要がないものであるから、被告が口頭審理を再開しなかつたことは、適法である。

(2) 前記(三)(1)ないし(4)記載の原告及び処分庁から提出された各書面、本件実地調査及び本件口頭審理の各結果並びに被告備付けの評価基準等により本件審査のための資料としては充分であつたから、被告が法四三〇条により処分庁から更に資料の提出を求めなかつたことは適法なものである。

なお、取扱要領については、原告において開示請求をしていないばかりか、本件審査に必要な部分については、処分庁から提出された答弁書等に記載されており、これを原告に閲覧させる必要は認められなかつた。

(3) 本件決定には、前記(三)(5)記載の内容の理由が付されているから、理由不備の違法はない。

(4) 以上のとおり、本件審査の手続には違法な点は存しない。

2  本件土地の評価

(一) 固定資産税における固定資産の評価は、法四〇三条一項により評価基準に従つてしなければならないところ、東京都特別区の存する区域においては、評価基準に基づく取扱要領が定められ、これらにより評価がされている。

評価基準及び取扱要領によれば、本件土地のような市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」(以下「宅地評価法」という。)により、路線価を基礎として、画地計算法を適用して当該宅地の評価をすることとなつている。

(二) 宅地評価法

(1) 宅地の利用状況を基準として、宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、特殊地区等に区分する。

(2) 区分した各地区ごとに、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを選定する。これが、標準宅地である。

(3) 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、標準宅地の単位面積当たりの適正な時価に基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設する。

主要な街路以外の街路の路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設する。

(4) 各筆の宅地の評価は、路線価を基礎として、画地計算法を適用して付設するが、宅地の状況に応じて、必要があるときは、画地計算法の付表について所要の補正をして適用することとされている。

そして、各筆の宅地の評点数に、評点一点当たりの価額を乗じてその評価額が算出される。

(三) 本件土地の評価

(1) 本件土地を含む地域は、都心にあり、商業地として高度に発達していて、繁華街より平均的に大きい規模の店舗が集合している地域であるから、高度商業地区である。

(2) 本件土地を含む地域の標準宅地として、中央区日本橋二丁目一番一八号に所在する本件標準宅地を選定し、売買実例価額から適正な時価を求めて、これに基づいて本件標準宅地の沿接する街路の路線価を九七万点とした。

(3) 本件土地が沿接する街路は、南面に幅員八メートルの都道(以下「本件正面路線」という。)と北面に幅員2.7メートルの私道(以下「本件裏路線」という。)の二路線があるが、本件標準宅地の沿接する街路の路線価を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して、本件正面路線の路線価は七二万点、本件裏路線の路線価は五四万点と付設した。

(4) 本件土地は、その奥行が約一五メートルであるので、取扱要領付表一により奥行逓減率は一〇〇パーセントであり、その表裏二方に路線があるので、同付表三により二方路線影響加算率は五パーセントである。したがつて、本件土地の画地係数は1.05となる。

(5) 以上によれば、本件土地の評点は、本件正面路線価に画地係数1.05を乗じて、これに地積189.48平方メートルを乗じた一億四三二四万六八八〇点となり、これに評点一点あたりの価額一円を乗じた一億四三二四万六八八〇円が本件土地の価格である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1について

(一)は認める。(二)のうち、特別区の区域における固定資産(土地)の評価が評価基準及び取扱要領によつて行うものとされていることは認め、主張は争う。(三)のうち、(1)ないし(3)は認め、(4)は不知、(5)は争う。(四)(1)のうち、原告が昭和五八年二月八日被告に対し口頭審理の再開を申し出たことは認め、主張は争い、(2)のうち、原告が取扱要領の開示請求をしていないことは否認し、主張は争い、(3)、(4)は争う。

2  同2について

(一)、(二)は認める。(三)(1)は認め、(2)のうち、標準宅地として本件標準宅地が選定されたことは認め、九七万点が路線価として適正であることは争い、(3)のうち、本件土地が幅員八メートルの本件正面路線及び幅員2.7メートルの本件裏路線に沿接することは認め、その路線価が適正であることは争い、(4)、(5)は争う。

五  原告の反論

評価基準及び取扱要領は、建築基準法五六条一項に定めるいわゆる斜線規制による建築制限については何ら考慮していない。そのため、本件決定は、本件土地の評価をするに当たり斜線規制による建築制限を考慮していない。

ところで、固定資産税の課税標準となるべき価格は、適正な時価をいう(法三四一条五号)のであり、評価基準及び取扱要領に従つた価格が適正な時価であるという保障はないから、これらに従つただけでは正しい評価とはいえない。そして、評価基準及び取扱要領に欠陥がある場合には、被告は、その欠陥を補つて固定資産の評価をする必要があり、斜線規制による建築制限も、これが土地の価格に影響を及ぼす場合には、評価基準及び取扱要領の規定に拘わらずこれを考慮して土地の評価をしなければならない。

本件土地のような高度商業地区の土地については、その価格は、実際に建築できる建物の延べ面積の敷地面積に対する割合(以下「実効容積率」という。)に比例するが、本件土地は、本件正面路線及び本件裏路線に沿接するため、斜線規制により、その実効容積率は別紙二に示した計算のとおり三四二パーセントとなるところ、本件土地と同一街区内にある対象土地の実効容積率は八〇〇パーセントで、一平方メートル当たりの価格は九九万七六〇〇円であるから、本件土地の一平方メートル当たりの適正な価格は、対象土地のそれの八〇〇分の三四二に当たる四二万六四七四円とするのが相当である。

ところが、本件決定は、本件土地の一平方メートル当たりの評価を七五万六〇〇〇円としており、同一街区内の対象土地と著しく均衡を失し、高額に過ぎて違法なものである。

仮に、斜線規制による建築制限は、個別評価による以外考慮することができないというのであれば、大都市の商業地区における固定資産の評価は、個別評価によつてでも右の制限を考慮に入れるべきである。

六  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

1  評価基準及び取扱要領において斜線規制による建築制限を土地の評価上直接は考慮していないこと、本件決定が直接には右制限を考慮していないこと、対象土地の実効容積率が八〇〇パーセントであり、その一平方メートル当たりの評価が九九万七六〇〇円であることは認め、本件土地の実効容積率が三四二パーセントであることは争う。

2  原告は、本件土地が、本件正面路線及び本件裏路線の二方路線に沿接しているため、斜線規制による建築制限により本件土地の価格が低減する旨主張している。

しかし、二方路線は、一方路線に比べ、出入の便、採光、通風、防火等から、その優位性が認められるので、価格の低減要因ではなく、加算要因であるから、原告の右主張は失当である。

また、前記三2(二)記載の宅地評価法においては、各筆の評点の付設に際して建築基準法上の各種制限(以下「公法上の制限」という。)を個別的に考慮していないが、公法上の制限は売買実例価格に反映し、ひいては標準宅地の適正な時価を通じて路線価に反映しており、したがつて、本件土地の評価においては斜線規制による建築制限も路線価を通じて考慮されていることになるから、仮に原告の反論するように斜線規制による建築制限を考慮するとすれば、同一事実を二重に考慮することになつて、不当である。

3  固定資産税における固定資産の評価は、評価基準に従つて行わなければならないから、これに従つた評価は原則として適正な評価である。

もとより、各筆の土地の評価をするに当たり、個別的に公法上の制限を考慮して評価することは好ましいことではあるが、その評価は、固定資産税賦課の前提としてされるものであつて、しかも、評価すべき宅地の数は極めて多く、これらを短時日の内に評価しなければならず、かつ、その評価は反復される性質を有するものであるから、一般の土地の鑑定評価とは性格を異にするものである。そして、評価基準及び取扱要領は、課税技術上可能な限り公法上の制限を考慮しようとしているから、合理的なものであり、したがつて、証価基準及び取扱要領による評価額に多少の不均衡が生じても、その評価は適正なものと解すべきである。ところで、実効容積率は各階の高さの数値いかんにより異なるものであるから、本件土地が本件正面路線及び本件裏路線に沿接することによりどの程度実効容積率が減少するかは明らかではないうえ、実効容積率のみが土地の価格決定要因となるものではなく、その影響の程度も明らかではないから、仮に高度商業地区においては実効容積率が土地の価格に影響を及ぼすとしても、本件土地における容積率の減少の程度では、これを考慮しなくても著しい不均衡は生ぜず、評価基準及び取扱要領に従つて本件土地を評価することは、合理的なものであつて、適法である。

4  更に、実効容積率を考慮して本件土地の評価をせよという原告の主張は結局のところ、土地の個別的評価を求めるものであるが、個別評価は、評価基準及び取扱要領の評価方法と矛盾するし、固定資産税課税の大量性、反復性、専門技術性からみて課税技術上も実施し難いものであるから、採用できないというべきである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二本件決定に至る経緯

被告の主張1(一)及び(三)(1)ないし(3)の各事実並びに特別区の区域における固定資産(土地)の評価基準及び取扱要領によつて行うものとされていること、原告が昭和五八年二月八日被告に対し口頭審理の再開を申し出たことは、いずれも当事者間に争いがない。

右一及び右の当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉を合わせ考えれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  原告は、昭和五七年四月二二日、被告に同日付け審査申出書を提出し、本件審査申立をした。

そこに記載の理由は、対象土地の容積率が八〇〇パーセントであるのに対し、本件土地のそれが四八〇パーセントであつて、利用効率が六〇パーセントであり、また、対象土地に比べ沿接する路線の幅員が狭いため(対象土地のそれは三〇メートルであるのに対し、本件土地のそれは八メートルである。)最高建築の高さ(法五六条一項により算出される高さ)が二六パーセントに制限されているうえ、面積も狭く、立地条件も悪いから、本件土地の評価は、少なくとも対象土地の六〇パーセント以下となるのが当然であるというものであつた。

被告は、右審査申出書の副本を処分庁に送付した。

2  これに対して、処分庁は、昭和五七年六月四日、被告に同日付け答弁書を提出した。

その要旨は次のとおりである。

(一)  本件土地の評価は、評価基準及び取扱要領により行つた。

(二)  本件土地の用途地区は、高度商業地区と認定した。

(三)  本件土地の評価の基準となつた標準宅地は、東京都中央区日本橋二丁目一番一八号に所在する本件標準宅地であり、その路線価は、売買実例価額及び地価公示価格等を総合的に勘案して一平方メートルあたり九七万点と評定した。

(四)  本件正面路線の路線価は、本件標準宅地の路線価を基礎として、街路の状況、公共施設等への接近状況、家屋の疎密度、都市計画法等の規制及びその他宅地の利用上の便等を総合的に考慮して七二万点と付設した。

(五)  本件土地は、高度商業地区にあり、かつ、奥行一五メートルで、本件正面路線及び本件裏路線に沿接するので、取扱要領付表1により奥行価格低減率を一〇〇パーセント、同付表3により二方路線影響加算率五パーセントを適用して、画地係数は1.05とした。

(六)  本件土地については、路線価七二万点に、画地係数1.05を乗じて単位面積当たりの評点を求め、これに地積を乗じ、更に、評点一点当たりの単価一円を乗じて本件登録価格を算出した。

(七)  対象土地は、外三筆の土地と合わせて一画地の土地として評価しているから、対象土地一筆のみを取り上げて本件土地と比較するのは適当ではないし、対象土地の沿接する街路の路線価は一一六万点であり、本件土地の路線価は七二万点で、標準的画地として比較すればその格差は六二パーセントであるから、本件申出書記載の格差と近似するものである。

報告は、右答弁書の写を原告に送付した。

3  これに対して、原告は、昭和五七年六月一七日、被告に同月一五日付け弁ばく書を提出した。

その要旨は次のとおりである。

(一)  本件土地と同番地にある東京都地価基準地点五―五(同都中央区日本橋二丁目七番五号。以下「本件基準点」という。)を無視して、東京都地価基準点でも地価公示点でもない本件標準宅地を標準宅地とした法的根拠の明示を求める。

(二)  幅員2.7メートルで有効な道路の態様をなさない本件裏路線をもつて二方路線の加算をするのは、本件裏路線が存在するために生ずる斜線規制による建築制限を無視した違法なものである。

(三)  本件土地並びに本件土地と密接な関係のある対象土地外三筆、本件基準点及び本件標準宅地の評価手順及び適用法律条項の詳細の明示がないかぎり、本件土地の評価は違法なものと断ぜざるをえない。

被告は、右弁ばく書を処分庁に送付した。

4  これに対して、処分庁は、昭和五七年七月二九日、被告に同月二八日付け再答弁書を提出した。

その要旨は次のとおりである。

(一)  評価基準及び取扱要領によれば、用途地区ごとに街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度、その他宅地の利用上の便等からみて相当に相違する宅地のうちから標準宅地を選定するものとされており、東京都地価基準点、地価公示点を標準宅地としなければならないとはされていない。

(二)  本件裏路線は、登記地目が公衆用道路であり、法三四八条二項五号の公共の用に供する道路と認定されている。二方に路線が存在する画地と正面にのみ路線が存在する画地のいずれがより厳しく斜線規制による建築制限を受けるかは、個々の事例により異なる。本件土地は、本件正面路線のみに接する画地と比較して、本件裏路線に接することにより、出入りの便、採光、通風、防火等その優位性が認められ、二方路線影響加算は適正である。

(三)  本件土地の評価手順は答弁書記載のとおりである。対象土地外三筆、本件基準点及び本件標準宅地は本件土地と状況が異なる土地で、本件土地と密接な関係のある土地ではない。

(四)  宅地評価法による評点付設の手順についての説明

被告は、右再答弁書の写を原告に送付した。

5  被告は、昭和五七年八月五日、被告の主張1(三)(2)記載の本件実地調査を行つた。

6  原告は、右4記載の再答弁書に対して、昭和五七年八月六日、被告に同月四日付けの弁ばく書を提出した。

その要旨は次のとおりである。

評点付設に至る各段階における具体的数値が存在する筈であるから、次の点について、昭和五七年八月一六日までに、書面により、その具体的数値、法的根拠及び適用条項の開示を求める。

(一)  本件土地、対象土地外三筆、本件基準点一筆及び本件標準宅地の宅地評価法による各段階における数値

(二)  右(一)の各土地の実効容積率及び評点付設に際してこれを考慮した具体的数値

(三)  東京都中央区日本橋二丁目七番地内のどの部分が画地とされているのか、公図上における明示

被告は、右弁ばく書の写を処分庁に送付した。

7  これに対して、処分庁は、昭和五七年八月二三日、被告に同日付け再々答弁書を提出した。

その要旨は次のとおりである。

(一)  本件土地を含む地域の用途地区を高度商業地区と認定し、標準宅地としては、本件標準宅地を選定した。本件標準宅地に沿接する街路の路線価は、付近土地の売買実例価額及び地価公示価格等を総合的に勘案して一平方メートル当たり九七万点と付設した。本件正面路線の路線価は、本件標準宅地の沿接する街路の路線価を基礎とし、街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度、都市計画法上の規制並びに沿接宅地の利用状況等を総合的に考慮して七二万点と付設した。本件土地の画地計算、評点数及び評価額の算出については答弁書に記載したとおりである。

なお、固定資産の評価は、必要に応じて特定の土地を評価する鑑定評価とは異なるものである。

(二)  対象土地外三筆、本件基準点外一筆及び本件標準宅地は、本件土地と画地の形状も沿接する街路も異なるもので、本件土地と比較しても意味がない。

本件審査申出は、本件土地の評価が適正であるか否かを審査するもので、本件土地の評価の経緯を示せば足りるから、他の土地の評価手順及び数値は、本件審査申出と直接関係がなく、答弁する必要はない。

(三)  建築基準法上の建築制限は、一定の地域を対象とする場合は、売買実例価額に反映し、各街路の路線価付設の際にも考慮されている。しかし、斜線規制による建築制限等の個々の画地の特殊事情による建築制限については、評価基準における画地計算法に示されていないから、考慮する必要はない。固定資産税における土地の評価は、大量の筆数を対象とする路線価式評価法であつて、その土地の特殊事情までも考慮する鑑定評価とは異なるものである。

被告は、再々答弁書の写を原告に送付した。

8  被告は、昭和五七年一〇月一三日、本件口頭審理を行い、その席上において、原告及び処分庁は、被告の主張1(三)(3)記載のとおりの陳述を行つた。

また、被告は、処分庁に対し、評価図を閲覧させられない理由を記載した書面を提出するように求めた。

9  処分庁は、昭和五七年一二月一〇日、被告に「評価図を開示できない理由」と題する書面を提出したが、その要旨は、法二二条又は地方公務員法三四条に抵触するおそれがあるから評価図を開示できないというものであつた。

被告は、右書面の写を原告に送付した。

10  原告は、昭和五八年二月八日、口頭審理再開の申出をした。

その要旨は、本件審理申出から半年の調査期間を経過した昭和五七年一〇月一三日に行われた本件口頭審理においても、処分庁は、評価根拠等を隠蔽し、評価根拠に関する具体的論議に入らぬまま、本件口頭審理は閉会し、更に、右9記載の書面にも一般論のみが記載されているのみで、評価図が開示できない具体的法令、通達等の記載がないから、責任ある答弁を求めるため、口頭審理を再開して、責任者である東京都主税局長の出席を求め、本件土地の評価額決定について不明瞭な点を解明することを求めるというものであつた。

11  被告は、昭和五八年二月二四日、口頭審理再開の必要はないものと判断し、その旨の書面を原告に送付したが、その要旨は、本件審査申出については昭和五七年一〇月一三日に口頭審理を開催し、その目的を達しているというものであつた。

12  被告は、昭和五八年三月一八日、本件決定をした。

その理由の要旨は、次のとおりである。

(一)  被告は、本件土地が評価基準及び取扱要領に則して適正、妥当に評価されているかを判断するものである。

(二)  原告は、本件正面路線の幅員が八メートルであることにより、本件土地の容積率が四八〇パーセントと対象土地の六〇パーセントに、更に、建築基準法五六条一項により建築物の高さが一二メートルと対象土地の二六パーセントに制限されていると主張するが、このような制限は路線価に反映しているものである。

(三)  本件正面路線の路線価七二万点は、本件標準宅地の路線価九七万点を基準にし、路線価に影響を与える諸条件、更に、他との均衡を考慮して、妥当に付設されている。

(四)  一方路線と二方路線を比較した場合、経済的効果の面で差があり、特に商業地区においては、その有利性を考慮する必要がある。本件土地に対する二方路線影響加算率は妥当なものである。

(五)  したがつて、本件土地の評価は適正である。

(六)  なお、原告は、本件土地以外の土地について、評点付設各段階における具体的数値等の開示を求めているが、これらの土地の評価は、本件審査申出の審査の対象外であり、評価図の開示は、処分庁における行政運営上の問題で被告の関知するところではない。

13  本件審査の過程で、処分庁から被告に対し、本件土地に関連する地籍図、路線価図、地籍図の一部に路線価を付した図面(乙第八号証)及び土地課税台帳の各写が提出された。

なお、評価基準及び取扱要領については、被告は常時これを備えつけている。取扱要領につき、原告からの閲覧や開示の請求がなかつたため、被告はこれを原告に見せていない。

三本件決定手続の適否

1  口頭審理手続の適法性

(一)  固定資産課税台帳に登録された事項に不服がある固定資産税の納税者は、独立機関である固定資産評価審査委員会(以下「委員会」という。)に審査の申出をすることができることとされている(法四三二条一項)。これは、固定資産の評価が専門的技術的な知識経験に基づく裁量的要素をもはらむ判断を基礎とし、更に計算の過程を経て決定されるものであるにもかかわらず、固定資産税の納税者は評価の結論としての価格については縦覧することができるが(法四一五条)、縦覧の期間は比較的短期であり、その際評価の過程についてまでは開示されることが保証されていないから、審査の過程において、評価の理由を明らかにさせ、審査申出人の反論等も充分に斟酌することにより、評価の客観的合理性を担保しようとする趣旨にいでたものと解される。そして、審査申出人の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続きによらねばならないものとされているのは(法四三三条二項)、審査申出人の不服事由を審査を行う委員会に対し直接に述べさせることを保障するとともに、その点につきそこで審理することなどにより、審査手続の適正を確保しようとするにあるものと考えることができる。

右の諸点からすると、委員会としては、審査申出人が評価についての不服とする点を明らかにするとともにその点に関して評価につき反論及び反証をするのに必要かつ合理的な範囲で、審査申出人に対し、評価の根拠、計算方法等の価格決定の理由を、委員会自ら又は価格決定をした行政庁をして了知させ、口頭審理の過程において、その点につき審理する措置をとらなければならないものと解される。

ところで、委員会の審査手続は、そもそも司法手続ではなく、行政救済手続であつて、職権主義の働く部分が大きく(法四三三条一項、四三〇条参照)、その処理については法により特に迅速性が要求されている(法四三三条一項参照)こと等に照せば、委員会における口頭審理手続は、そこにおいてのみ主張、立証が許されるという裁判手続におけるような厳格なものが要請されているものとは到底考えられない。

したがつて、前述の価格決定の理由を了知させる措置は、必ずしも口頭審理の際にしなければならないものではなく、口頭審理を開く以前において行政庁等の提出した書面等により、審査申出人が評価に対し反論及び反証ができる程度に価格決定の理由を了知することができる場合には、口頭審理手続きにおいて価格決定の理由を繰り返し明らかにしなければならないというものではない。

(二) 前記二で認定した事実及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件登録価格について、

(1) 本件審査申出の時点から一貫して、本件土地の容積率(四八〇パーセント)が対象土地のそれ(八〇〇パーセント)の六〇パーセントに過ぎない等の事情があるのにその価格は対象土地の約七五パーセントと均衡がとれていない点、

(2) 処分庁から答弁書が提出された以降は一貫して、二方路線影響加算がされた点及び仮に二方路線影響加算が適法ならば、本件裏路線に沿接することによる実効容積率の減少が本件土地の評価上考慮されていない点に不服を有していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)(1)  〈証拠〉によれば、処分庁は、評価基準及び取扱要領に従い、宅地評価法により本件土地の評価をしたものであること、処分庁は、本件登録価格決定の理由として、

(ア) 本件標準宅地に沿接する街路の路線価の基礎となつた売買実例地は、昭和五五年七月に取引された東京都中央区八重洲一丁目に所在する土地で、その取引価額は一平方メートル当たり三七〇万円であるが、右取引価額には買急ぎによる七〇パーセントの不正常要因があるので、正常売買価額は一一一万円であると評価したこと、

(イ) 本件標準宅地に沿接する街路の路線価九七万点は、前記売買実例価額及び地価公示価格を基礎として、街路の状況、公共施設等への接近状況、家屋の疎密度都市計画法等の規制及びその他宅地の利用上の便等を総合的に考慮し、更に、他の地区の標準宅地との均衡も考慮して定めたものであること、

(ウ) 本件正面路線の路線価七二万点は、本件標準宅地に沿接する街路の路線価を基礎として定められたものであるが、街路の状況等右(イ)に掲げた諸事情を総合的に考慮して定めたものであること、

(エ) 本件土地の画地係数は、本件土地が本件正面路線及び本件裏路線に沿接することから、取扱要領付表3により二方路線影響加算を五パーセントとした以外は加算せず、1.05と定めたこと、

(オ) 本件登録価格は、本件正面路線の路線価(七二万点)に画地係数(1.05)、地積(189.48平方メートル)及び評点一点当たりの単価(一円)を乗じて算出したこと、を挙げていること、また、処分庁は、対象土地をそれと一体として利用されている外三筆(同所同番六号、一六号、三四号の土地)の土地と合わせて一画地として評価することとし、同画地が一一六万点の路線価が付設された街路及び本件正面路線の二方路線に沿接し、その奥行が長大であることから、二方路線影響加算率1.05、奥行価格逓減率0.82で、画地係数0.86と算出し、これをもとに同画地の評価額を算出したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 右認定した事実及び前記二で認定した事実によれば、処分庁は、本件口頭審理の開催以前にその写が原告に送付された、答弁書、再答弁書及び再々答弁書において、本件登録価格決定の理由(右1の(ア)ないし(オ))については、そのうち、売買実例地、その価額及び処分庁が判断した正常売買価額(右1の(ア)の点。以下合わせて「売買実例地等」という。)を除いては、概ねこれを明らかにしていたものということができる。また、〈証拠〉によれば、原告は、本件審査申出の当初から、対象土地が外三筆と合わせて一画地として評価され、その面積(合わせて811.47平方メートル)及び評価額(九九万七六〇〇点に面積及び一点の単価一円を乗じた八億〇九五二万二四七〇円)を認識していたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、処分庁は、同画地の沿接する街路の路線価が一一六万点であることを答弁書において明らかにしているから、同画地の画地係数は計算上容易に判明するものであり(九九万七六〇〇点を一一六万点で除した0.86となる。)、更に、本件口頭審理において処分庁は、本件土地と同画地の各沿接する街路の路線価よりも価格格差が減少しているのは本件土地が奥行逓減の適用を受けないためであることを陳述して、本件土地と同画地の画地係数の算定上異なるものは奥行価格逓減率であることを示唆しているから、原告は、同画地の評価額の根拠を容易に認識できたものと認められる(ちなみに、二方路線影響加算率は本件土地同様1.05であるとすると、奥行価格逓減率は、画地係数0.86を1.05で除した0.82となる。)。そして、本件土地と同画地は同一街区にあるからその標準宅地は同一であると考えられるので、本件売買実例地等が、本件口頭審理あるいはそれ以前において明示されなかつたとしても、本件登録価格と同画地の価格が均衡しないという点について、原告は充分に反論及び反証ができたものというべきである。

(3)  処分庁は、再答弁書において、本件裏路線を道路と認定する根拠及び二方路線は優位性を有するとして本件土地について二方路線影響加算をする根拠を述べ、更に、再々答弁書において、斜線規制による建築制限のような個々の画地の特殊事情については評価基準及び取扱要領において画地計算法に示されていないから考慮することができないとして本件土地の評価上斜線規制による建築制限を考慮できない根拠を述べている。そして、本件土地について二方路線影響加算をするか否か、斜線規制による建築制限を評価上考慮するか否かについては、右処分庁の見解が明らかになれば、原告としてこれに対応することができると考えられるから、この点について、原告は本件口頭審理において、充分に反論及び反証ができたものというべきである。

(4) 以上によれば、原告は、本件口頭審理において、その不服事由について充分に反論及び反証する機会が与えられ、原告は、本件登録価格について、前記二のとおり、被告の主張1(三)(3)記載のような陳述をし、それに基づき口頭審理が行われたのであるから、その手続に違法な点はないものと解される。そして、一旦適式な口頭審理が開かれた以上、更に口頭審理を開催する必要があると認められる特段の事情がない限り、これを再び開催するか否かは、審査権限を有する被告の裁量に委ねられているものと解すべきであるところ、右特段の事情及び被告の右裁量の権限の逸脱についてはこれを認めるに足る証拠はないから、被告が、口頭審理の再開をしなかつたことには違法の点はないものというべきである。

2  資料提出義務について

(一)  弁論の全趣旨によれば、被告が処分庁に対し取扱要領、評価図の提出を命じていない事実が認められる。この被告の措置が、資料の提出命令に関する法四三〇条に違反するかどうかにつき判断する。

(二) まず、取扱要領について考えるに、前記二によれば、被告は、取扱要領を常時備え付けているというのであるから、被告が処分庁に対し取扱要領の提出を求める必要がなかつたことは明らかというべきである。また前記二13のとおり、本件審査の過程において、原告は取扱要領の閲覧や開示の請求をしていなかつたものであるし、しかも、〈証拠〉によれば、取扱要領のうち、本件土地の評価に必要な部分については、答弁書、再答弁書に記載されていることが認められるのであるから、被告がその手元にある取扱要領を原告に開示する必要を認めなかつたとしても、あながち不当とはいえない。右によると、被告が取扱要領を処分庁に提出させなかつたこと及びこれを原告に開示しなかつたことは、なんら違法ではないというべきである。

(三) 次に、評価図について考えるに、前記二によれば、原告が処分庁に対し評価図の開示を求めていたが、処分庁がその開示に応じなかつたものである。

しかしながら、前記1(二)記載の不服理由との関係で必要なものは、対象土地の評点と考えられるが、前記1(三)(2)のとおり、原告は、本件申出の当初から対象土地(外三筆を含む。)の面積及び評価額を認識していたのであるから、評価図の開示は、この点では必要がなかつたものということができる。また、本件訴訟において被告から評価図の一部に匹敵する図面と考えられる乙九号証が提出されたが、その後においても原告は、特に右書面に基づく格別の主張をしていないことなど弁論の全趣旨に鑑みると、仮に本件審査の段階で評価図が提出されたとしても、原告としてはこれにより本件登録価格に関する新たな不服理由を構成することはなかつたものと認められるから、評価図の開示は、原告が本件登録価格に関し新たな反論及び反証をするという点においてもまた必要がなかつたものと解される。したがつて、評価図を提出させず、開示しなかつた被告の措置は、結果としては不必要なものを提出させなかつたに過ぎず、これを違法と評価すべきものではない。

3  本件決定の理由付記について

委員会の審査決定には、その制度の趣旨等に鑑み、審査申出人の不服事由に対応して、決定に至る過程の概略を理解させる程度の理由を付記する必要があるものと解するのが相当である。

ところで、原告の本件審査の段階における不服事由は、前記1(二)記載のとおりであり、本件決定に付記されている理由は、前記二12記載のとおりであるところ、これによれば、本件決定に付記された理由は、原告の不服事由に対応して、決定に至る過程の概略を理解させる程度のものと解することができる(なお、本件裏路線に沿接することによる実効容積率の減少すなわち斜線規制による建築制限に関する不服については、必ずしも明示の理由があるとはいえないが、理由中の、本件土地が評価基準及び取扱要領に即して適正、妥当に評価されているかを判断するという説示(前記二12(一))から、右建築制限を考慮する必要がないと判断していることを優に読み取ることができる。)。

したがつて、本件決定には、付記理由不備の違法はないものというべきである。

四本件登録価格の正否

1  評価基準及び取扱要領の違法性について検討する。

(一)  法三四一条五号は、固定資産税における固定資産の価格とは、「適正な時価をいう。」ものと規定し、法四〇三条一項は、市町村長は、法三八八条一項により自治大臣が定めた評価基準によつて固定資産の価格を決定しなければならない旨規定している。また、〈証拠〉によれば、取扱要領は、土地につき評価基準を特別区の区域において実施する場合における要領として定められたものであるが、その中で、評価基準の画地計算法の付表等について評価基準第一章第三節二(一)4による所要の補正を加えていることが認められる(なお、この事実によると、取扱要領には評価基準を補完、補正する部分が含まれており、その部分は、単に行政機関内部の通達としての性格のみを有するとはいえないから、少なくともその部分については、評価基準に準じ公にする措置をとるのが相当と考える。)。

右によると、評価基準は、法の規定に従い、固定資産の価格(すなわち適正な時価)を算定する基準、方法等を定めるべきものであり、また取扱要領は、評価基準の定めに従い、土地の価格の算定に関し評価基準を補完ないし補正する事項を定めるべきものであり、したがつて、固定資産(土地)の価格の決定は、それが法の規定に従つた評価基準及びそれに従つた取扱要領により、かつ、その適正な運用のもとにされたものである限り、適法なものということができる。しかして、評価基準を定めるについて、法はこれを自治大臣の合理的な裁量に、また、取扱要領を定めるについて、評価基準はこれを東京都知事の合理的な裁量にそれぞれ委ねることとしているものと解されるから、評価基準ないし取扱要領は、それが固定資産(土地)の価格を算定する基準、方法等として著しく妥当性を欠くものと認められない限り、自治大臣ないし東京都知事の裁量の範囲内において定められたものとして、法の規定ないし評価基準の定めに従つた適法なものと認めるほかないというべきである。

(二)  まず、評価基準(本件登録価格に関しては昭和五六年自治省告示第二一八号による改正前のもの。以下同じ。)についてであるが、その第一章第三節一及び二によれば、本件土地のように主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、宅地評価法によつて評価する旨が定められている。この宅地評価法は、いわゆる路線価式評価法であるが、路線価式評価法は、一般に、大量の宅地を短時日の内に相互の均衡を考慮しながら評価する方法として使用できるものと解されているところ、固定資産税において評価すべき宅地の筆数は極めて多く、かつ、その評価は短時日のうちにしなければならないと考えられるから、評価基準において路線価式評価法を採用したことが妥当性を欠くといえないことはもちろんである。また、評価基準は、宅地評価法における各街路の路線価は、売買実例価額を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等及び各街路の路線価の均衡等を総合的に考慮して決める旨定めているのであるが、そのような定めが妥当性を欠くとは到底考えられない。そして、評価基準の画地計算法の付表等を含むその他の点についても、固定資産(土地)の価格を算定する基準方法等としてこれを著しく妥当性を欠くものと判断すべき根拠もなければ、証拠もない。したがつて、評価基準は、全体として法の規定に従つた適法なものというほかはない。

次に、取扱要領についてであるが、〈証拠〉によれば、取扱要領は、評価基準に従いそれを補完しあるいは補正する事項を定めているものであることが認められ、取扱要領の定めが固定資産(土地)の価格を算定する方法として著しく妥当性を欠くとする根拠もない。したがつて、取扱要領もまた、全体として評価基準に従つた適法なものというほかはない。

2  評価基準及び取扱要領が本件土地の評価に当たり適正に運用されているかにつき検討する。

本件登録価格が一億四三二四万六八八〇円であることは、当事者間に争いがなく、処分庁が本件土地の評価を評価基準及び取扱要領によりしたものであつて、処分庁が本件登録価格の決定の理由とするところは、前記三1(三)(1)(ア)ないし(オ)に掲げたものであることは既に述べたとおりである。そして、これらの事実と、〈証拠〉を合せ考えれば、本件標準宅地に沿接する街路の路線価九七万点及び本件正面路線の路線価七二万点の各付設が評価基準及び取扱要領の適正な運用のもとにされたものであり、評価基準及び取扱要領によれば、本件土地の画地係数 は、二方路線影響加算率が五パーセントで他の加減要素はないので、1.05となることが認められ、この事実によると、処分庁の掲げる本件登録価格決定の理由は、いずれも正当なものであるということができる。

甲第二号証の五は相続税財産評価の路線価図であるが、固定資産税と相続税ではその趣旨が異なり、かつ、両者に関する路線価を決定する権限を有する者は異なるものであつて、その両路線価が同一でなければならないことも、また両者に関する各街路間の路線価の割合が一致しなければならないこともないというべきであるから、一般に、相続税に関する路線価を引用して、固定資産税に関する路線価を不当とする理由とはなし難いものであるし、しかも、同書証によつても、本件土地、対象土地等に関する両路線価が著しく均衡を失するとは認められない。したがつて、同書証は、右認定判断を左右するものではない。また、甲第九ないし第一二号証は路線価式評価法を採用していない土地の鑑定評価に関するもので、鑑定評価は、宅地評価法として採られている路線価式評価法とはその手法を異にするものであるから、やはり右認定判断を左右するものではない。そして、他に右認定判断を覆えすに足りる証拠はない。

右認定判断によれば、本件登録価格の決定は、評価基準及び取扱要領により、かつ、その適正な運用のもとにされたものと解されるから、適法なものということができる。

3  右1、2の判断に関連する原告の主張等につき判断する。

(一)  原告は、本件土地の評価に当たつては、本件裏路線に沿接することにより生ずる実効容積率の減少を考慮すべきであり、また、本件土地のように高度商業地区に存在する土地の価格は実効容積率に比例するところ、本件土地の実効容積率が三四二パーセントであり、対象土地のそれが八〇〇パーセントであるから、対象土地の価格から算出される本件土地の一平方メートルあたりの価格は四二万六四七四円が正当である旨主張している。

当該宅地が接する街路からの斜線規制による建築制限は、当該宅地の利用効率に影響を及ぼすから、このような制限は売買価格に反映するものと考えられる。また、これは各街路の路線価を付設する際に考慮すべき街路の状況あるいは土地の利用上の便に含まれるともいえるから、路線価が適正に付設される限り、その路線価に反映しているものともいうことができる。したがつて、このような制限は、一般的には、画地係数を付設する過程で考慮する必要はないものであり、画地計算の付表等においてこれを考慮していない評価基準及び取扱要領の態度が妥当性を欠くことはない。

ところで、この点に関連して、原告は、本件土地は、本件正面路線及び本件裏路線の二方路線に沿接するためいずれか一方のみに沿接する場合よりも、実効容積率が減少する旨主張している。このような実効容積率の減少は、本件土地が二方路線に沿接するという個別的事情により生じたものであるから、本件正面路線の路線価等に反映しているとはいい難い。そこで、このような場合においても、斜線規制による建築制限を考慮する必要がないのかについて検討する。

宅地評価法は、いわゆる路線価式評価法であり、画一的な基準により、大量の土地を評価するものであつて、その性質上、土地の価格に影響を及ぼす全ての事項を考慮にいれることは技術上不可能に近いものであるうえ、大量の土地を短時日の内に評価しなければならないという課税技術上の制約からも、評価上考慮すべき事項は制限されざるをえず、各筆の土地の評価にある程度の不均衡が生じることは避けられないというべきであるが、限られた職員数で、大量の宅地を短時日の内に評価しなければならないという固定資産税の課税技術上の制約を考慮すれば、宅地の評価上、価格に影響を及ぼす事項のうち、重要なもののみを取り上げて、価格に及ぼす影響の少ないものを取り上げないこととしても、制度上やむをえないものというべきであつて、その結果著しい不均衡が生じない限り、その評価は正当なものと解すべきである。

他の条件が同一である場合には、実効容積率が大きい土地の方がそれが小さい土地より、価値が高いことは明らかであるから、前者の価格が後者のそれより高くなることは当然であるが、その場合でも、両者の価格は、両者の実効容積率のみに比例するものとは考えられず、両者の価格の割合が両者の実効容積率の割合とどのような関係にあるかを明らかにする証拠はない。もつとも通常は、前者の価格は、後者の価格に前者の実効容積率の後者のそれに対する割合を乗じたものより低いということはいえるものと思われる。そうすると、実効容積率の相違をどれだけ考慮すべきかが判然としないというべきであり、そうである以上これを直接には考慮しないこととしている評価基準及び取扱要領の態度はこれを妥当性を欠くものとすることはできない。

もつとも、本件土地の実効容積率が相当に低く、これを価格の評価に当たり考慮しないことが著しく不当と認められるという例外的な事情があるとすれば、これを考慮しない固定資産の評価は違法となるとも考えられるので、右事情の存否につき更に検討する。

本件裏路線の幅員が2.7メートルであることは当事者間に争いがないから、建築基準法四二条二項により本件土地と本件裏路線の接する線から0.65メートル後退した線まで(以下この部分を「みなし道路部分」という。)は建物の敷地とはならない。そして、〈証拠〉によれば、みなし道路部分を除く本件土地の形状は概ね別紙三のとおりであることが認められる。また、本件正面路線の幅員は八メートルであることは当事者間に争いがないから、同法五六条三項、四二条二項、同法施行令一三二条一項により、本件土地と本件裏路線の接する線から0.65メートル後退した線から反対道路端に向けて八メートル移動させた線が、本件土地が本件裏路線に接することによる斜線制限の起点となるものと解するのが相当である(この点、原告主張の別紙二の1ロの計算の前提は誤つている。)。以上を前提として各階の高さを各3.5メートルとした場合の本件土地の実効容積率を計算すると、別紙四のとおり425.0パーセントとなり、本件土地の本来の容積率四八〇パーセントからの減少率は11.5パーセントとなる(なお、別紙二による原告主張の実効容積率の計算は、1ロの算式において、右に述べた法解釈上の誤りがあり(+は8とすべきである。)、また、削減の基本となる容積率が五〇〇パーセントであることを前提としていると解される部分があり、更に一階を四メートルとしているなどの点から、当裁判所の判断においては、これを考慮に入れなかつた。)

ところで、実効容積率が減少することにより本件土地の価格が減少するとしても、その程度が明らかではないこと、通常は後者の減少の割合よりも前者の減少の割合の方が小さいと考えられることは既に述べたとおりである。そして、実効容積率は当該土地に建築する建物の各階の高さにより変動するものであることは明らかであるが、本件土地が原告主張のように当該土地の実効容積率にその価格が大きく影響される地区に存在しているとすれば、本件土地上に建物を建築する場合にはできるかぎり実効容積率が減少しないように、各階の高さを可能な限り低くするものと考えられ、したがつて、その実効容積率の減少の割合は右に算出した割合よりも相当程度下回ることも充分に考えられるところである。そうすると、本件土地の価格の減少の割合は、それが仮に実効容積率の減少の割合に近似するものと仮定してみても、数パーセント程度の些少なものとも考えられないわけではない。してみると、本件土地の評価にあたり本件土地が本件裏路線に沿接することによる実効容積率の減少を考慮しないことが著しく不当とは認められないから、本件登録価格の算定は、これを考慮していないからといつて適法性を失うものではないというべきである。

(二)  なお、本件登録価格と対象土地(外三筆を含む。以下同じ。)の価格との均衡について一言するに、本件土地及び対象土地の沿接する各正面街路の路線価は七二万点及び一一六万点であることは前記のとおりであり、その格差は62.07パーセントであることは計算上明らかである。前掲乙第八号証によれば、本件土地及び対象土地の法定の容積率は四八〇パーセント及び八〇〇パーセントで、その格差は六〇パーセントであり、本件土地が本件裏路線に沿接することによる実効容積率の減少を考慮しなくても違法でないことは右(3)のとおりであるから、本件土地と対象土地は正面路線価の点では不均衡とはいえないものというべきである。そして、証人佐藤紀保の証言によれば、本件登録価格と対象土地の価格が均衡していないのは、本件土地の奥行逓減率が一〇〇パーセントであるのに対し、対象土地のそれが八二パーセントであるためであることが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、仮に本件土地及び対象土地が、その価格において容積率に大きく影響される地区に存在しているとしても、本件登録価格と対象土地の価格との間には法定の容積率の点では不均衡はないというべきである。

4  以上によれば、本件登録価格は正当なものということができる。

五よつて、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官加藤就一 裁判官塚本伊平は転補のため署名、押印することができない。裁判長裁判官鈴木康之)

別紙 二

別紙 三

別紙 四

別紙 一

1 東京都中央区日本橋二丁目七番二七号

宅地 189.48平方メートル

2 同所同番一〇号

宅地 811.47平方メートル

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